「すみませんが、この固有値解析についてよくわかりません」

このたび、先輩とお客様のもとに出向き、初めて解析コンサル業務の報告を行った際、専門でない方に固有周期の概念をわかりやすく説明できませんでした。普段当たり前のように固有値解析をやっている自分は、果たして本当に理解しているかと思い、専門でない方にでもうまく説明できるように目標を設定しました。

建物の「素質」?

建築の世界でよく言われる「周期」とは、建物が自由振動するとき、揺れが一往復するのにかかる時間です。「固有周期」は言葉の通りに、ある建物1棟ごとに持っている特有の周期と言われています。簡単に言えば、建物の用途、値段などと同様に、建物が「生まれてから」持っている素質と考えてもいいかもしれません。当然、建物の用途や値段みたいに、固有周期も絶対変わらないわけではないです。改修工事によって建物が重くなったり、地震後部材が塑性化して建物全体の剛性が下がったりすることによって、この「生まれてから」の素質も変わるでしょう。

初期剛性による一次固有周期

ここは個人の認識になりますが、建築の専門家たちがよく言っている「この建物の周期どのくらい?」の周期は、正確に言うと建物の初期剛性による一次固有周期です。初期剛性は、建物の「元の固さ」を表す指標です。また、建築基準法の中は、建物の固有周期を簡単に概算できる式も存在しています。鉄筋コンクリート造建物の場合はT(s)=0.02*h(m)(Tは固有周期、hは建物の高さ、昭和55年建告第1793号より)となっています。実務の中でも、最初に建物の全体像を把握する際、この概算式は一つの参考になります。一例として、固有値解析結果の周期は概算式の周期より短い場合は、制振補強、耐震壁などが多数配置されていて、建物は経験より「固い」などの原因が考えられます。

「なぜ固有周期を調べますか?」

さて、「この固有周期で何を説明できる?」という質問は普通に飛んできます。先ほどご紹介した「重さ」や「固さ」など、経験上建物の「全体像」を把握するのは一つの目的です。また、立体モデルを作成する解析業務の中に、固有周期はモデルの妥当性を検証する最初の指標と言えます。経験値とあまりにも違いすぎる場合は解析モデルを見直す必要があります。(なので、固有値解析をする前に、いつも「変な周期が出ないように」と祈っています笑)
なお、周期に近い振動を与えると建物は大きく揺れるという「共振現象」が発生します。下の図はRESPの免震セミナー(初級)でよく使われている図ですが、図のように建物の固有周期とある地震波の卓越周期が一致する場合、極端に大きな応答が発生してしまうことが簡単にわかります。

ただし、塑性化や減衰による影響で建物の周期が変わって上図の「ピーク」から「逃げる」こともできます。振動解析結果による建物の塑性化程度を調べ、さらに制振装置の配置などの補強手段もたくさん存在しますので、きちんと建物の「生まれてからの素質」と「これからの素質」を把握したうえで、お客様に自信をもって「こうしたら大丈夫」と言えると納得していただけるのではないかと思います。

まとめ

当たり前のことばっかりですが、専門でない方にうまく説明できるようになったら、自分の理解も深まると感じました。さて、今回ご紹介した固有周期についてまとめますと、解析の初期段階で建物の「全体像」を把握する重要な指標であり、地震時どのぐらい揺れることを予測できるパラメータであることを今度の報告で説明したいと思います。

次回は固有モードや有効質量などを専門でない方にでもうまく説明できるようにご紹介します。

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