はじめに

以前以下の記事で、RESP-Dにおけるキャパシティスペクトル法の解説をしました。
実は、RESP-Dだけでなく、RESP-F3Tにも同様の機能が搭載されています。 機能としてはほぼ同等なのですが、応答スペクトル計算コマンドの継続コマンドとして、気になるコマンド HysteresisDamping があります。
塑性化による履歴減衰を考慮した要求スペクトルを求めてくれる機能です。これだけ見て、実際に何をやっているかわかる人はかなりの上級者ではないか思います。実際にどのような計算をしているか、本記事で解説したいと思います。

キャパシティスペクトル法の考え方

キャパシティスペクトル法の詳細な考え方はここでは解説しませんが、大まかには以下のような考えです。
  • 外力の想定として、「要求スペクトル」がある
  • 建物耐力曲線として、「耐力スペクトル」がある
  • 耐力スペクトルと要求スペクトルが交差する点が応答点となる
  • 要求スペクトルは構造物の減衰により変化する
要求スペクトルは、告示により規定されたスペクトルや、地震波から求めた応答スペクトルを用いる事ができます。この時、原則的には減衰定数は5%とします。 耐力スペクトルは建物の荷重増分解析結果のQ-δ曲線を等価1自由度縮約して求めることができます。 これらの交点を求めれば応答点が求まりますが、建物が弾塑性に入ると履歴減衰が大きくなりますので実際の要求スペクトルは5%よりも大きな減衰の値を用いる必要があります。このように考えると、交点を求める→減衰を変更する→交点が変わる→減衰を変更する→交点が変わる→… の繰り返しとなりますので、収斂計算が必要となってしまい、少し面倒です。
ただし、要求スペクトル計算時に予め建物の耐力スペクトルがわかっていれば、各固有周期の際に建物の塑性率がわかるため、固有周期に応じた減衰定数で応答スペクトルを計算することができます。 イメージとしては以下のように、各減衰定数における固有周期を渡り歩くようなイメージです。なお、耐力スペクトルはバイリニアとして記載されていますが、実際の考え方は図に示すように「等価線形化」です。実際の応答点はグレーのポイントと白抜きのポイントが一致するところとなります。したがって、赤線のような要求スペクトルが初めから算出できれば、それと耐力スペクトルの交点が履歴減衰も考慮した応答点ということになります。

履歴減衰の求め方

履歴減衰の考え方は鉄筋コンクリート構造では以下のように計算できます。 $$ h = 0.25 \cdot (1 – \frac{1}{ \sqrt{\mu} }) + 0.05 $$ $$ h: 減衰定数 , μ: 塑性率(μ≧1) $$ 参考文献: 鉄筋コンクリート造建物の等価線形化法に基づく耐震性能評価型設計指針(案)・同解説 https://www.aij.or.jp/books/all/productId/616380/

履歴減衰を考慮したSa-Sd曲線

El Centro NS の地震波を用いてSa-Sd曲線を作成してみました。各減衰定数の要求スペクトルと、履歴減衰を考慮した要求スペクトルを同時に描画しています。塑性率1.6程度のところで履歴減衰を考慮した要求スペクトル(ピンクの太線)と耐力スペクトル(黒の太線)が交差しています。塑性率1.6の場合、減衰定数は h = 0.25×(1-√1.6) + 0.05 = 0.102 となりますが、h=0.100の要求スペクトル(緑の線)ともほぼ同じ位置で交わっていることから妥当な結果であることが確認できます。

Fh低減との関係

RESP-F3Tでは、各減衰定数の応答スペクトルを数値計算により算出していますが、前述した文献ではFhという低減係数により減衰を考慮した加速度を求める方法が示されています。Fhの計算は以下となります。 $$ F_h = \frac{1.5}{1 + 10 h} $$ $$ h: 減衰定数 $$ 先程の塑性率1.6の場合の結果に対し、Fhを算出してみると、Fh=1.5/(1+0.102) = 0.7425 となります。 Fhによる低減は、5%減衰の要求スペクトルに対する加速度低減です。5%減衰の要求スペクトル(青線)との交点は約600galですので、塑性率1.6時の低減を考慮した加速度は 600×0.7425 = 445 gal となります。 先程の結果では約500galとなっていたため、今回の結果では1割ほど加速度を小さく評価する結果となりました。実際の設計では応答スペクトルを毎回計算するのは大変ですので、Fhを用いて検討することも多いと思います。

RESP-F3Tの入力コマンド例

参考に、今回使用したRESP-F3Tの入力データを掲載します。

InputUnit N cm
OutputUnit N cm

<======================================================================
WAVE ELCENTNS  2688 0.02 Format '(7F10.1)' Skip     1 File '.\SampleWave2006s.dat' 
LoadCase ELCENTNS
  LoadEarthquake  ELCENTNS  UX  1.0

<======================================================================

Analysis ResponseSpectrum
 Title "ELCENTNS"
 Wave  ELCENTNS
 Period Begin 0.01 End 10.0 Point 500 
 Damping Factor 0.05
 OutputResponse Sa-Sd 

Analysis ResponseSpectrum
 Title "ELCENTNS"
 Wave  ELCENTNS
 Period Begin 0.01 End 10.0 Point 500 
 Damping Factor 0.075
 OutputResponse Sa-Sd 

Analysis ResponseSpectrum
 Title "ELCENTNS"
 Wave  ELCENTNS
 Period Begin 0.01 End 10.0 Point 500 
 Damping Factor 0.10
 OutputResponse Sa-Sd 

Analysis ResponseSpectrum
 Title "ELCENTNS"
 Wave  ELCENTNS
 Period Begin 0.01 End 10.0 Point 500 
 Damping Factor 0.12
 OutputResponse Sa-Sd 

Analysis ResponseSpectrum
 Title "ELCENTNS"
 Wave  ELCENTNS
 Period Begin 0.01 End 10.0 Point 500 
 Damping Factor 0.14
 OutputResponse Sa-Sd 

Analysis ResponseSpectrum
 Title "ELCENTNS"
 Wave  ELCENTNS
 Period Begin 0.01 End 10.0 Point 500 
 Damping Factor 0.16
 OutputResponse Sa-Sd 

Analysis ResponseSpectrum
 Title "ELCENTNS"
 Wave  ELCENTNS
 Period Begin 0.01 End 10.0 Point 500 
 Damping Factor 0.05
 OutputResponse Sa-Sd 
 HysteresisDamping A 500  D 4  

まとめ

RESP-F3TのSa-Sd曲線の計算機能について紹介しました。詳細な応答解析を行わなくても塑性化を考慮した応答を評価できるキャパシティスペクトル法は、補強量の検討や建物にどの程度の減衰を付加するかの計画に有用に活用できるツールですので、ぜひご活用ください。

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