減衰タイプの取扱い

建築構造解析では慣例的に剛性比例減衰がよく用いられるためその他の減衰についてあまり着目されません。
しかしながら、剛性比例減衰では高次モードの減衰を大きく評価する特徴があるため、高次モードの影響が大きいと判断される場合にはレーリー減衰を採用する場合もあります。

減衰を議論する際には専ら減衰定数だけが注目されますが、実は減衰タイプによって減衰マトリクスの形や対象とする固有周期以外の周期帯に対する減衰評価が異なるなど、注意すべき点がいくつかあります。

そこで今回は質量比例減衰、レーリー減衰を例に取り、剛性比例減衰との違いを示していきます。

 

質量比例減衰とは?

質量比例減衰と剛性比例減衰はいずれも比例減衰と呼ばれ、それぞれ質量マトリクスと剛性マトリクスに比例させて減衰マトリクスを作成します。
いずれの減衰においても減衰定数hと対象とする固有円振動数ωが設定に必要となります。

質量比例減衰: 2・h・ω・[M]

剛性比例減衰: 2・h / ω・[K]

h: 減衰定数, ω: 固有円振動数, [M]:質量マトリクス, [K]:剛性マトリクス

質量比例減衰と剛性比例減衰との違い

1. 剛性比例減衰の減衰力が層間速度に比例するのに対し、質量比例減衰の減衰力は相対速度に比例する

質量マトリクスと剛性マトリクスでは行列の形状が異なります。質量マトリクスは一般的に対角項しか値が入りませんが、剛性マトリクスでは非対角項にも値が入ります。

このマトリクス形状が表す意味としては以下のように、地面からの相対変位に対して作用するか、各層の層間変位に対して作用するかの違いとなります。

これは例えば免震構造のように、層間変位と相対変位で大きく傾向に差が生じる場合には注意が必要です。

 

 

2. 剛性比例減衰が周期が長いほど減衰が小さく評価されるのに対し、質量比例減衰では周期が長いほど減衰が大きく評価される

 

剛性比例減衰は目標とした固有周期に対し、より周期が短い(振動数が大きい)振動に対して減衰が
大きく考慮されるような特徴を有します。
1次モードが支配的な建築構造物では2次以降の減衰が多少大きくなっても応答の傾向にそれほど大きな影響を及ぼさないことが多いことから、1次固有周期に対して減衰を設定されることが慣例的に行われます。
質量比例減衰では全く逆の傾向で、設定した固有周期よりも長周期(振動数が小さい)の振動に対して
減衰が大きくなります。この特徴の違いには注意が必要です。

例えば免震構造の固有周期を設定する際には基礎固定の固有周期を用いて剛性比例減衰を
用いることがよく行われますが、質量比例減衰の場合は基礎固定の短い周期で減衰を設定することは減衰を過大評価することにつながります。

 

レーリー減衰の場合は?

 

レーリー減衰は質量比例減衰と剛性比例減衰の組み合わせで減衰を設定します。したがって、両方の特徴を有することになります。

特徴としては周期の長い(振動数の小さい)側が質量比例減衰に近い傾向となり、周期が短い(振動数の大きい)側が剛性比例減衰に近い傾向となります。

 

免震水平上下同時加振時のレーリー減衰

レーリー減衰は免震構造の引き抜き検討で水平上下同時加振を行う際、水平固有周期と比較して短周期となる上下固有周期における減衰を過大評価しないために用いられることがあります。具体的には、「水平方向の固有周期と上下方向の固有周期の2つの周期において2%の減衰定数となるようにレーリー減衰を設定しよう」というような使い方になります。レーリー減衰は2つの周期とそれぞれの減衰定数を決定すれば比例係数が算出できます。剛性比例減衰を設定したときには、水平方向の固有周期と減衰定数を決めていますので、あとは上下方向の固有周期と減衰定数を定めればいいだけ、ということになります。ただし、実は水平方向の固有周期の設定にも注意が必要です

免震構造では剛性比例減衰を設定する際、免震層固定時の固有周期を用いることが一般的です。これは、上部構造の減衰定数を設定するうえでは上部構造のみの振動モードを対象とするほうが妥当と考えられるためです。これがレーリー減衰となると話が異なってきます。なぜかというと、レーリー減衰の長周期側の特徴は、下の図に示すように質量比例減衰の特徴を有するためです。質量比例減衰では減衰力は層間変位ではなく、相対変位に作用するということをすでに説明しました。免震構造の上部構造は、免震層の影響で層間変位は小さくなりますが、相対変位は大きくなります。したがって、この長周期側の減衰力は上部構造の各層に作用します。また、相対変位は免震層の変位が支配的ですので、基礎固定の周期ではなく免震層の等価周期により応答します。質量比例減衰は剛性比例減衰と反対に、長周期成分に対してより減衰力を発揮しますので、水平周期で基礎固定の周期を採用すると非常に過大な減衰を考慮することになります

例)水平基礎固定周期 1.0s   減衰定数 2%と設定した場合、

水平等価周期 4.0sと仮定すると、実質的な減衰定数は 2% × 4.0 / 1.0 = 8%

したがって、免震構造においてレーリー減衰を用いる場合には免震の水平方向等価周期と上下固有周期を用いるほうが妥当性が高いといえます。

 

まとめ

まとめると、以下のようになります。

  • 高次モードの影響が大きいと考えられる場合には、剛性比例減衰以外の減衰を検討することが望ましい。
  • 剛性比例減衰と質量比例減衰は減衰が大きくなる周期帯が異なるだけでなく、層間変位に対して作用するか相対変位に対して作用するかという違いもある。
  • 免震構造においてレーリー減衰を用いる場合は、採用する水平方向の周期は基礎固定でなく免震等価周期のほうが妥当性が高い。

 

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