シアリンク型のダンパー反力

シアリンク型ダンパーは制振構造では比較的よく選択される配置形式です。 シアリンク型でオイルダンパーを配置した場合、周辺部材の設計においてダンパーの反力を適切に考慮する必要があります。 シアリンク型の場合、ダンパーは柱の柱脚か柱頭付近に接続することになり、柱梁接合部の節点に対して偏心して取り付くことになります。 しかしながら、これを厳密にモデル化しようとすると柱を分割する必要が生じ、汎用構造計算プログラムでないと煩雑になりがちです。 RESP-Dでも階を追加すれば厳密にモデル化することが可能ですが、各階が2層ずつになると煩雑であるため避けたいところです。 そこで、この偏心を考慮した反力をどのように考慮するべきか検討してみました。

反力の考慮方法

速度依存ダンパーを静的な設計に考慮する方法としては、A. 静的要素に置き換える方法や、B. 外力として作用させる方法、C. 設計時応力に加算する方法などがあります。 今回はCの方法、設計時応力に加算する線で考えてみました。

検討手順

検討手順として以下のように考えました。
  1. 振動解析によりシアリンク周辺の応力時刻歴を算出
  2. 振動解析結果の架構部最大層せん断力を静的設計用せん断力として設定して静的解析を行う
  3. 振動解析による柱梁の応力時刻歴と静的解析による応力を比較する
これにより、実際に動的に外力が作用した結果として、静的な設計用せん断力を外力として作用させた場合の応力と比較してどのくらい割り増すべきかがわかります。

応力の比較

応力の比較を行います。 まずは静的解析の応力図を示します。外力分布は、動的解析結果による最大層せん断力によって設定しました。このとき、ダンパー部分のせん断力は除いています。今回は赤枠で囲った、X1通り付近の柱および大梁モーメントに着目します。数値が重なって少し見えにくいですが、柱脚モーメントが -24kNm、梁の左端モーメントが80kNmです。
今回のモデルでは、ダンパーの取り付きは2FLの芯から500mm上部と仮定しました。今回振動解析では、オイルダンパーのリリーフ荷重は25kNとしていますので、リリーフ荷重時にはで 25×0.5 = 12.5 kNm の偏心モーメントが作用することになります。実際のダンパー減衰力はリリーフ荷重を超えて作用しますが、今回はリリーフ荷重以下の反力になる想定だったためこのリリーフ荷重時の偏心モーメントを考慮することとしています。 まず柱について、動的・静的の応力を比較してみます。静的に対しては、ダンパーによる偏心モーメントを加算した応力も比較します。 結果として、動的解析のモーメントは静的解析のモーメントをわずかに上回るものの、静的解析に偏心モーメントを考慮した結果と比較すると、静的解析+偏心モーメントのほうが2割以上過大となりました。
大梁についても比較します。こちらは、動的解析のモーメントよりも偏心モーメントを加算する前の静的解析のモーメントのほうが大きくなってしまいました。静的解析では偏心モーメントの影響が入っていないため、これは想定外です。
よく結果を眺めていると、どうやらシアリンクを配置した2Fと、配置していない1Fで最大層せん断力が発生する時刻が大きくずれているようでした。したがって、振動解析の最大層せん断力分布で静的設計用外力を設定すると、1F部分に作用する外力が振動解析時よりも過大になっています。そのため、偏心モーメントによって増加するモーメントと、時刻歴では外力が小さくなることによって減少するモーメントが相殺することによって応力の増加が生じなかったことがわかりました そこで、静的設計用せん断力を2Fの最大層せん断力発生時刻における各階層せん断力として設定し直して解析してみました 応力図を示します。柱が-18kNm、梁が69kNmです。
動的解析と静的解析の応力の比較は次のとおりです。 柱については動的解析のほうが静的解析よりも大きな応力が生じています。偏心モーメント分を加算すると、わずかに静的解析+偏心モーメントの応力のほうが大きくなります。このわずかな差には、動的解析で生じるダンパーの減衰力が、偏心モーメント計算で想定したリリーフ荷重25kNよりも小さい(約21kN)ことも関係します。 大梁についても同様の傾向でした。柱には直接ダンパー反力が作用してモーメントが発生するので偏心モーメント分の差が生じるのは想定通りでしたが、大梁でも偏心モーメント25kNmが概ねそのまま差分になるのは意外でした(下階柱とモーメントを剛比分担するかと思っていました)。

結論:どのような外力を設定するか?

結果としては、「偏心距離×減衰力を柱と大梁両方で分担する」という考えであれば安全側になりそうです。一方で、今回の結果に限って言えば、柱については偏心モーメントを考慮すべきですが、梁については時刻無視の最大層せん断力で静的設計用外力を設定しておけば結果的に十分な設計応力となっていますので、大梁に対してどの程度反力を考慮すべきかは判断の余地があるようにも思いました。 結果的には当たり前とも思える結論ですが、私も最初は「偏心距離×減衰力を節点モーメントとして載荷すればいいのかな」と思っていたので、個人的には発見でした。ちなみに節点モーメントとして考慮すると柱のモーメントが減少することになってしまいますので、柱に対しては危険側の検討となります なお、今回の検討は一例ですので、実際の建物ごとにどのように設計応力を考えるべきかは設計者が各々判断して頂く必要があります。今回の検討が判断の一助となれば幸いです。

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