前回の記事で不安定な場合は境界条件を与えて解を調整すれば実際の現象を解析で再現できることを示しました。しかし、不安定なまま連立方程式を解き、実際に起こる現象を解として出力することが可能な事もあります。
今回はその理解のために連立方程式の解の種類について解説します。

連立方程式の解の種類

連立方程式の解は次の3種類あります。
  1. 正則:答えが唯一に求まる
  2. 不定:答えが複数存在する
  3. 不能:どうやっても答えが存在しない
具体的に簡単な数値例と対応する構造解析の問題を説明します。

正則の場合

正則の場合の連立方程式は次のような場合になります。

$$
\left(\begin{array}{cc} {1} & {3} \\\ {2} & {4} \end{array}\right)
\left(\begin{array}{c} {X}_{1} \\\ {X}_{2} \end{array}\right)
=
\left(\begin{array}{c} {3} \\\ {6} \end{array}\right)
$$

この連立方程式は左から逆行列を掛けて次の様に解けます。

$$
{ \left(\begin{array}{cc} {1} & {3} \\\ {2} & {4} \end{array}\right) }^{-1}
=
- \frac{1}{2}
\left(\begin{array}{cc} {4} & {-3} \\\ {-2} & {1} \end{array}\right)
$$

$$
\left(\begin{array}{c} {X}_{1} \\\ {X}_{2} \end{array}\right)
=
- \frac{1}{2}
\left(\begin{array}{cc} {4} & {-3} \\\ {-2} & {1} \end{array}\right)
\left(\begin{array}{c} {3} \\\ {6} \end{array}\right)
=
\left(\begin{array}{c} {3} \\\ {0} \end{array}\right)
$$

係数行列に逆行列が存在する場合は答えが一意に求まります。
このような問題は構造解析で言うところの、不安定な要因が一つもなくプログラムを使っても何の問題もなく解くことができるような状態です。

不定の場合

次に不定の場合を示します。

$$
\left(\begin{array}{cc} {1} & {2} \\\ {2} & {4} \end{array}\right)
\left(\begin{array}{c} {X}_{1} \\\ {X}_{2} \end{array}\right)
=
\left(\begin{array}{c} {3} \\\ {6} \end{array}\right)
$$

この時の係数行列は行列式が0となるので逆行列が存在しません。なので、定石どおりに逆行列を掛けて解を求める事はできませんが、この連立方程式をよく見ると次のような解が見えてきます。

$$
\left(\begin{array}{cc} {1} & {2} \\\ {2} & {4} \end{array}\right)
\left(\begin{array}{c} {3} \\\ {0} \end{array}\right)
=
\left(\begin{array}{c} {3} \\\ {6} \end{array}\right)
$$

そしてさらに観察していると次のような答えもあります。

$$
\left(\begin{array}{cc} {1} & {2} \\\ {2} & {4} \end{array}\right)
\left(\begin{array}{c} {1} \\\ {1} \end{array}\right)
=
\left(\begin{array}{c} {3} \\\ {6} \end{array}\right)
$$

読んで字のごとくで、「不定」というのは「(解が1つに)定まらず」というように考えればイメージと一致します。構造解析で言うと次のような状態です。

不能の場合

最後に不能の場合を説明します。

$$
\left(\begin{array}{cc} {1} & {2} \\\ {2} & {4} \end{array}\right)
\left(\begin{array}{c} {X}_{1} \\\ {X}_{2} \end{array}\right)
=
\left(\begin{array}{c} {5} \\\ {6} \end{array}\right)
$$

係数行列は不定の場合と同様なので、逆行列が存在しません。これはどんなに頑張って答えを探しても見つかることはないでしょう。同じく構造解析で言うと次のような状態です。

不定のイメージ

不定で解が一つに定まらない事のイメージを説明します。
例えば、門型ラーメンに水平力を加えた次のような解析結果をイメージしてください。
次にこの門型ラーメンに前回解いた「不安定モデル1」の様に基端がピンとなる片持ち梁がついた場合を考えます。門型部分の変位はこの基端がピンとなる片持ち梁 があってもなくても変わりません。というのもこの片持ち梁が基端を中心にして回転するような変位は内力が発生しないような核(カーネル)であり、この変位によって発生する力がないので、それに釣り合うような外力も必要ありません。よって以下の3つは同じ外力に対して同様の内力のつり合いとなる変位状態となります。
これは剛性方程式で考えると、KとFが同じなのにXが少なくとも上記の3パターンは存在していることになります。

$$
K X = F
$$

元々解けている(正則な)連立方程式があり、応力の発生しない変位(カーネル)が存在するように要素を追加した場合、そのカーネル分の変位によって応力のつり合い状態は変わりません。なので、応力が発生しないような変位の分、解が不定になるというわけです。
そして、この不安定な因子があると逆行列が存在しなくなるため、連立方程式としては通常の解き方ができなくなります。

まとめと次回予告

今回は連立方程式の解の種類とそれに対応する構造力学の問題を記載しました。教科書通りに作成したプログラムは通常「正則」の状態しか解けません。市販のプログラムはもっと進んでいて、「不定」な場合は境界条件を変更して「正則」な問題に置き換えるという作業をしています。※この記事も参考にしてください。
今回のシリーズはこの「不定」な場合にどうやって判定するか、そして答えをどうやって求めるかという事が肝になります。次回は、連立方程式の一般解と解の存在判定について記載します。

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