本記事は、2007年度建築学会大会梗概 「地震波の水平・上下同時入力による時刻歴応答解析手法の検討」の内容を再編集したものです。
水平・上下同時入力の時刻歴応答解析を行うにあたって、水平・上下で独立した減衰を与える手法を提案しています。

著者:梁川幸盛

KeyWord:同時加振, 水平動, 上下動, 軸力変動, 高層免震建物

1. はじめに

高層建物の設計における地震応答解析では、鉛直部材の軸力を精度良く推定するために、水平方向・上下方向の地震波を同時に入力した応答解析が求められる。特に高層免震建物では、免震装置の引抜の設計がクリティカルであるため、水平・上下方向の同時加振による応答解析の重要性が高まっている。しかし、一般の建築構造物の水平変形と上下変形の固有振動数は10倍前後ほど離れた振動モードとなるため、広く用いられている剛性比例減衰では、それぞれの振動モードに適切な減衰を与えることが難しい。このため、全体系の1次固有周期(すなわち水平変形の1次モード)に基づいた剛性比例減衰を用いた同時入力の振動解析※1では、上下変形モードの減衰を過大に評価することになり、設計として危険側の結果を与えかねない1)
本稿では、上記の水平・上下の同時解析において適切な剛性比例減衰を与えるために、水平成分と下成分の振動方程式を分離して並列に解き、それぞれの応答値を加算することにより、同時加振の時刻歴応答解析を行う方法を提案する。

※補足1:水平・上下同時入力の応答解析は、水平応答解析の追加検討として行われることが多く、一般的な水平応答解析では剛性比例減衰を用いることが多いため、水平応答解析との連続性を担保する意味で研究対象を剛性比例減衰とした。
 
文献1):「多次元入力地震動と構造物の応答」, 日本建築学会, 1998, I編-2章, 実現象から見た多次元挙動

2.解析方法

図1に計算フローを示す。

図1図1解析のフロー

水平動(式 1)および上下動(式 2)を独立して解き、得られたそれぞれの増分加速度・速度・変位を加算して水平・上下同時の応答とする。

式1

式2

式 3 により、それぞれの増分応答値を加算し、水平・上下の応答とする。
式3

3.試解析

図2に水平・上下の入力地震動を示す。水平・上下動のそれぞれのピークは同時刻ではない。

図2入力地震波(EL CENTRO)

図3~5に示す40階建ての高層RC建物に入力し、○印の柱軸力を検討対象とした。

図3 基準階伏図(○印の柱を対象)

図4 代表構面軸図

表1に本建物の初期剛性による固有周期を示す。1次固有周期は約8倍の違いがある。それぞれの1次固有周期に対して、h=3%の減衰を与えた。なお、柱のMN相関の評価にはファイバー要素を用いた。

表1 固有値解析結果(秒)

図5に全体の1次固有周期に対して単純に剛性比例型減衰を与えて解いた柱軸力の時刻歴を示し、図6に今回提案する方法にて解いた柱軸力の時刻歴を示す。なお、図5、図6の縦軸の単位はtfである。

図5図5 柱軸力時刻歴(単純剛性比例型減衰)

図6図6 柱軸力時刻歴(今回提案方法)

表2には、この時の最大応答柱軸力の比較を示す。単純剛性比例型では、大きな減衰が作用して上下動の影響が極めて小さいのに比べ、今回提案する方法では上下動の影響が認められる。

表2最大応答柱軸力の比較(単位:tf)

4.まとめ

本稿は、時刻歴応答解析において水平・上下動が同時に入力される状況を解くための手法を提案した。本方法は、上下動と水平動の計算を分離することに特徴があり、設計のための解析手法としてはおおよそ妥当な解析結果の傾向を示すことが確認できた。しかし、下記の点では妥当性の確認ができておらず、今後の課題といえる。
・不釣合い力の処理方法
今回の試解析では、不釣合い力を水平成分の次ステップの外力項に代入し、反復計算は行っていない。
・速度依存(流体・粘性・粘弾性)ダンパーの扱い方
ダンパーを陽解法要素として扱う場合に、ダンパーの抵抗力の処理方法。
・上下動の応答に関する表層地盤への逸散減衰の影響

 

今回使用したソフト RESP-D


時刻歴応答解析による設計を支援する統合構造計算プログラム

詳細はこちらから

 

返信を残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です