RESP-Dでは柱のモデル化は複数の微小断面(以降、セグメントと呼ぶ)に分割したファイバーモデルが採用されますが、この時の塑性率の計算方法について解説したいと思います。
ファイバーモデルの塑性率計算方法
ファイバーモデルの塑性率計算方法は「部材復元力特性計算条件」から設定することが可能で、以下の4つから選択します。
①塑性率基点歪みを設定
S造やRC造といった構造種別ごとに塑性率基点となる歪の値を設定し、縁のセグメントの歪が設定したひずみに達した時を塑性率基点とする、縁歪のみに起因して基点を決定する計算方法になります。(デフォルトではこの計算方法になります。)
歪の値はデフォルト値でS造は圧縮・引張ともに0.01、RC造では圧縮が0.005、引張が0.01となっています。
塑性率基点歪のデフォルト値は「縁歪みがここまで進行していれば、さすがに
このため、あくまで終局耐力に達しているかどうかの判定を行うのに使う値になっており、「降伏時変形の点として使い、部材塑性率4以下などの評価に使う」といった使い方を想定したものではありません。
ファイバーモデルの塑性率計算方法はオーソライズされたものがなく、当初はこの縁歪による計算方法以外に案もなかったためこの計算方法が実装されました。実装順序の関係で初期値となっておりますが、推奨設定という意味合いはありません。
②重み付け平均塑性率(曲率)
③重み付け平均塑性率(たわみ角)
重み付け平均塑性率について
前述した①の方法では縁歪のみに寄与して塑性率基点を決めることから、軸力の入り方次第で縁の一部が塑性化しただけの状態であったり、全塑性からだいぶ進行した状態であったりと剛性低下のタイミングと塑性化のタイミングがずれる場合があることが懸念されました。
そこでRESPチームでは「ファイバー分割断面ひとつひとつの塑性率を、
中立軸から遠い断面ほど歪が増加したときの全体のモーメント上昇に与える寄与が大きいことから、寄与が大きいセグメントの多くが塑性化する状況に至ったタイミングを部材が塑性化したタイミングとみなす、ということを意図した計算方法になります。
これにより、鉄骨部材であればフランジが塑性化すれば概ね塑性率基点になります。
※参考文献:鈴木, 會田, 梁川, 宇佐美, 木村,ファイバー要素断面の塑性率算定に関する考察 : その3 RC部材への適用検討, 2013, 日本建築大会
曲率とたわみ角について
セグメントの塑性状況で塑性率基点を決めており、塑性率の算出方法として曲率を使うかたわみ角を使うかを選択することが出来ます。
梁要素は基本として M=EIΦ という式で成り立っていることから、まず最初にプログラムとして実装されたのは、曲率Φによる塑性率評価からはじめました。
ただ、曲率というのはある局所的な変形集中によって大きくなるため、非常に感度が鋭く、塑性化が進むと急激に値が大きくなるケースもありました。
そこで、層間変形角と感覚的に対応しやすい、たわみ角を使って基点、応答点を評価する方法も追加した、という経緯があります。
それぞれのポイントとしては
・曲率を用いる場合も、たわみ角を用いる場合も、塑性率基点を決定するステップは同じ
・曲率の場合は上記決定ステップにおける曲率を塑性率基点曲率として記録し、たわみ角の場合
は同様に塑性率基点たわみ角として記録する
・曲率の場合は最大応答曲率/塑性率基点曲率、たわみ角の場合は最大応答たわみ角/塑性率基点
たわみ角を塑性率として定義する
・曲率は変位の2階微分のため、感度が鋭い(パルス的な最大加速度が出る応答でも、最大変形
が大きくなるとは限らないのと同じ)のに対し、たわみ角はほぼ水平変形と比例関係にあるた
め感覚的に最大層間変位/降伏発生時層間変位に近いオーダーの塑性率が生じる
④降伏発生時を基点とする
まとめ
ファイバーモデルの塑性率基点の計算方法について4つの方法を説明しました。
RESP-Dではデフォルトの設定として「塑性率基点歪み」により塑性率基点を決めるよう設定しており、歪の設定は塑性率を十分終局応力に達しているかどうかという判定材料として使うことを想定した値となっています。このため、塑性率の値で部材を評価する場合など、物件や設計思想によっては塑性率基点歪を変更したり「重み付け平均塑性率」を利用すると言った設計者判断が必要になるかと思います。
関連する製品