質点系振動モデル
質点系振動モデルは、日本における時刻歴応答解析においていまだに重要な役割を占めています。計算機が発達し、立体振動解析が現実的に運用されるようになったいまでも、建物の振動特性の理解のしやすさ、パラメトリックスタディの容易さから広く用いられています。質点系振動モデルの基本的な概念はシンプルで理解しやすいものですが、実は裏側では普段の実務ではあまり意識されない様々なノウハウがあります。本記事では第1弾として、「等価せん断型」の質点系振動モデルについて解説していきたいと思います。
等価せん断型
等価せん断型はその名の通り、各階の変形のすべてをせん断変形であるとみなしせん断ばねとしてモデル化する方法です。したがって、建物全体の曲げ変形の影響がそれほど大きくない建物、例えば中低層程度の建物や塔状比が小さい建物では比較的精度がよいモデルとなります。塔状比が大きい建物で適用しても1次固有周期については比較的精度よく合わせることができますが、2次モード以降の周期は長めに算出されてしまいます。モデルとしては以下のように、上下の質点をせん断ばねで接続するだけの単純なモデルになります。
等価せん断型のモデルイメージ
転倒モーメントの伝達
前述の通り、モデルとしては「上下の質点をせん断ばねで接続するだけ」と書きましたが、実際にはそれだけでは問題が生じます。一般的な構造解析プログラムで上下の質点をせん断ばねにより接続するモデルを考えてみるとわかりますが、せん断ばねだけでは曲げ(転倒モーメント)が伝達できません。
単純なせん断ばねによる質点系モデル
質点系振動解析においては転倒モーメントを把握することは重要ですので、これは解決すべき問題となります。ただし、転倒モーメントを計算するだけであれば、各階せん断力に階高を乗じて上階から累積すれば求まるので、質点系振動解析の専用プログラムはただせん断ばねをモデル化するだけでなく、追加でこのような計算を行っていることが多いです。
それよりも問題となるのは、ロッキングばねを考慮した場合です。ロッキングばねを考慮した場合には転倒モーメントは単なる集計ではなく、実際にモーメントを伝達しないと適切なロッキングばねの回転変形が考慮できません。
等価せん断型のロッキング考慮のための工夫1(質量マトリクスの非対角項による方法)
そこで、等価せん断ばねでロッキング考慮のための工夫として、質量マトリクスの非対角質量を設定する方法が考え出されました。以下はRESP-M/Ⅱのマニュアル抜粋です。通常、質量マトリクスは対角項のみに質量が入りますが、非対角項に質量×階高の値を設定することで回転慣性質量を表現しようとする方法になります。
RESP-M/Ⅱにおけるロッキングを考慮した質量マトリクス
等価せん断型のロッキング考慮のための工夫2(モデル化による工夫)
RESP-Dで採用している方法
RESP-Dでは曲げ剛性が十分剛とみなせる梁要素として等価せん断型を表現しています。この方法であれば曲げを伝達することができます。ただし、解析モデル上常に「十分に剛」といえる曲げ剛性を設定することは判断が難しく、RESP-Dでは経験則的に設定しています。一方で大きすぎる値を設定すると、「情報落ち」という計算機上の問題が発生し、全体の計算精度が低下してしまいます。RESP-Dのような建物モデルから質点系モデルを作成するプログラムではある程度質点系モデル諸元の範囲が限られてくるため経験的に値が設定できますが、もっと多様なモデルを考える場合には変位拘束を用いて剛な状態を保証するほうが確実といえます。
RESP-Dの等価せん断型モデル
RESP-MXで採用している方法
RESP-M/Ⅱでは様々な質点系モデルが選択できます。等価せん断以外のモデルについてはほかの記事で触れていきたいと思いますが、それぞれのモデル化において可能な限り共通化ができるよう振動モデルを構成しています。そのため、RESP-MXによる等価せん断のモデルは一見すると複雑です。ただしこれはあくまで計算内部の話で、使っていただくうえでユーザー様が意識する必要はありません。
モデル化のポイントは以下です。
- せん断剛性はばねで表現する。
- 各層に多重節点(主節点、従属節点)を設け、せん断ばねを水平に接続する。
- 下層の従属節点と上層の主節点は剛体で連結する。(曲げを伝達する)
- 下層の主節点と上層の主節点は回転同一となるよう変位拘束する。(曲げによる回転変形を生じないようにする)
RESP-MXの等価せん断型モデル
まとめ
今回は質点系振動モデルの基本である等価せん断型について説明いたしました。その2では等価曲げせん断型について書きたいと思います。
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